第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

(解説)核兵器と北朝鮮・イランの核問題について

 原子力は、IAEA保障措置の厳格な実施などにより、平和的に利用すれば有用であるが、一方で核兵器に転用されうるとの側面を持ち、北朝鮮やイランの核問題の解決は、国際社会にとって大きな課題となっている。その問題について核兵器と原子炉に着目して説明する。

(1)核兵器1の原料:ウランとプルトニウム
 核兵器は、中性子の吸収により原子が分裂する際に放出される巨大なエネルギーを利用した兵器であるため、核兵器の製造には、まず、核分裂を起こしやすい原子からなる物質(核分裂性物質)が必要となる。代表的な核分裂性物質として、ウランとプルトニウムがある。
 天然ウランは、核分裂を起こしやすいウラン235とそうでないウラン238からなり、ウラン235は天然ウランに約0.7%しか含まれていない。したがって、核兵器の原料として使用するには、天然ウランからウラン235だけを抽出する作業(濃縮)が必要となる。ウランの濃縮には、一般的に、数千の遠心分離機を連接した大規模な濃縮施設が必要とされ、濃縮施設においてウラン235の濃度は兵器級(90%以上)に高められる。
 一方、プルトニウムは自然界にはほとんど存在せず、原子炉で人工的に作り出されるが、現在、世界においてはプルトニウム型の核兵器が主流となっている。原子炉では、ウラン燃料に中性子が照射され、ウラン235の核分裂によりエネルギーが発生すると同時に、ウラン238に中性子が吸収され、副産物としてプルトニウムが生成される。その結果、使用済燃料には、ウラン235、ウラン238、プルトニウムなどが混在しているが、再処理施設において使用済燃料に化学的処理を施すことで、プルトニウムの抽出が可能となる。なお、通常、原子炉を発電用に用いる場合の使用済燃料から出るプルトニウムは、プルトニウム2402の含有比率が高い「原子炉級プルトニウム」と呼ばれるものであり、核兵器としては使用しにくいとされている。

(2)原子炉の種類とイラン・北朝鮮の核疑惑
 原子炉には、黒鉛減速炉、重水炉、軽水炉がある。黒鉛減速炉と重水炉は燃料として天然ウランを使用可能であるとともに、軽水炉と比べプルトニウムの生産に適しているとされる。一方、軽水炉は燃料としてウラン235の濃度を3〜5%に高めた低濃縮ウランを使用する。低濃縮ウランの確保のためには、国産または輸入の二つの選択肢があり、前者の場合、濃縮施設が民生用か兵器用かの見極めが問題となる。軽水炉は燃料の取替え時に原子炉を停止する必要があるため、プルトニウムを含んだ使用済燃料の監視が黒鉛減速炉などに比べ容易であるとされる。
 北朝鮮は、94年の「合意された枠組み」により、軽水炉の提供などを条件に、自前の黒鉛減速炉などの解体に合意し、北朝鮮によるプルトニウム型核兵器開発疑惑は、いったんは解決の道筋がつけられた。その後、北朝鮮は、軽水炉用低濃縮ウランを輸入することが想定されていたにもかかわらず、遠心分離機の原材料を輸入しようとしていた疑いが持ち上がり、ウラン型核兵器の開発についても疑惑が持たれている。(2章2節参照)
 イランは、自国で建設中の軽水炉の稼動に必要な低濃縮ウランの製造のためとして自国内でのウラン濃縮技術の確立を目指している。しかし、02(平成14)年まで、ウラン濃縮を含む活動がIAEAに未申告のまま実施されていたことから、もっぱら平和目的の核開発であるとのイランの主張には信頼が得られておらず、イランによる核兵器開発の疑惑も指摘されている。数次にわたる安保理決議などに反し、イランはウラン濃縮活動を継続しており、IAEAは、本年5月、約1,300台の遠心分離機が稼動していると報告した。また、イランは、研究用重水炉も建設中であるが、軽水炉に加えて重水炉も必要な理由が明確でないこと、重水炉は軽水炉よりもプルトニウムの生産に適しているとされることから、国際社会の懸念を生んでいる。(2節参照)


 
1)核兵器には、主として、核分裂兵器と核融合兵器があるが、ここでは前者のみを取り扱う。
 
2)プルトニウム240は、核兵器に用いられるプルトニウム239と異なり、自発的に核分裂を起こしやすいため、これを多く含む場合、効果的な核爆発が得られないとされる。

 

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